今回の、このボジョレーイベントで準備する 『ヌーボーではないボジョレー』 は
この企画を立てたときから、マルセル ラピエール氏のワインにしようと思っていました。
初めて彼のワイン、モルゴン2005を飲んだときの思いは
今も、つい最近のことのように思い出されます。
この仕事を始めて10年。今まで働いてきたレストランは
クラシカルな料理を供するお店で、その料理に合わせるかのように
ワインも伝統的な造りのワインを揃えていました。
私はそんな環境の中で、いわゆるグランヴァンと呼ばれるような、数々の偉大なワインに感激し
そして、そういったワインを好んでいました。
世間では、自然派ワインが騒がれ始めていましたが
たまに飲んでみると、変な香りがしたり
一本をじっくり飲んでも変化がなくて、途中で飽きてしまう。。。
やっぱり、ビオワインはちょっと。。。
ただ、マグナムボトルも揃えていたルフレーブ、妖艶さに酔いしれるルロワ、
熟成したフンブレヒト、などは『別』と思っていました。
そんな思いを持ったまま、とあるワインバーでバイトをしていたときのこと。
マルセル ラピエール氏のモルゴンをグラスで出していて
仕事の後、それを飲んだとき、そんな考えがグラリと崩壊。。したのでした。
素直に美味しいのである。。。
木苺のようなかわいらしい香りに、伸びやかでしなやかな味。
「あー、今日疲れた~

もう、だめ~~」みたいなとき。
そっと、寄り添ってくれる感じ、というのでしょうか。
お風呂上がりにだって、楽しめる赤、とでもいいましょうか。
マルセルラピエール氏の、穏やかな笑顔そのもの、みたいなワインであったのです。
ワインを構成する要素はたくさんあって、外観や色調などの見た目から、香りに味。
味だけをとってみても、酸味に渋みに甘みに苦みなど、多様で
あまりに複雑だと、疲れるときだってあるのですが
あのときのモルゴンは、人に例えるならば
一緒に暮らせます。っといった感じの優しさがありました。
それはやはり、ルロワのような妖艶なピノ ノワールとはまったく違うものですが
ガメイ種に対する気持ちを、そしてビオワインに対する気持ちを
改めさせる経験でした。
そんな素敵なワインを、みなさまにも楽しんでもらえたら。。
そう思って、彼のワインを手配したとき。
彼がこの世を去ったことを知ったのです。
10月10日のことだったそうです。
この事実を受け入れがたい彼のワイン愛好家が、世界中にきっとたくさんいることでしょう。
氏が与えてくれた大きな感動と喜びに感謝すると共に
心よりご冥福をお祈りいたします。